| 優美はソフトボールをするのは初めてだった。 大きな体のために金属バットがこっけいなほど短くみえる。ソフトボール用のバットは細いので、優美の極太の体と対比されてつまようじのようだ。 優美だって野球やソフトは知っているが、見るのとやるのでは大違いだ。 まず、両手でバットを持つとまともにスイングが出来ない。太すぎる腕と巨大な超乳筋がじゃまになるのだ。 体育の教師もしているナオミは、自分の経験もあり、超肉体の子達への指導は上手い。優美に利き腕一本でバットを持たせ、利き腕と反対の打席立たせた。利き腕が引き手になるようにしたのだ。右利きの優美は左打席に立つ事になる。こうして、腕一本だが、思いきりバットが振れるようになった。 「じゃ、いくよ〜当てる事に集中して〜」「はーい」 ナオミがマウンドから声をかける。そして下手から軽い玉を投げた。 ゴギ! 体の回転もなにもない、腕だけで振ったバットの先にボールが当たると高々とフライが上がった。 ピッチャーフライだった。 「いたたた」 バットを持ち替え、右手をぷらぷら振る優美。バットの先の先、一番飛ばない、一番痺れる部分でおもいっきり打ったので、さすがの優美も多少手が痺れたようだ。それでもかなり高いフライを飛ばしたのは優美の怪力ならではだ。 しかし、運動神経の良い優美はすぐにコツをつかんだ。スイングは鋭さを増し、身体全体を使ったその振りはいかにも重そうだ。網に向かってする打撃練習も、打球の勢いは軽く振っても網を突き破りそうな勢いだ。 太郎が優美の練習の噂を聞き覗きに来た。さっそく投手、といっても素人投球だが、をかってでる太郎。 「本気で打つからね〜」 「おしこーい!」 ひょいと太郎が下手に投げた。 身体の回転、腕の振り、そして優美のパワーの乗ったスイングがボールを叩き潰す。 バギャッ!! 打撃音とは思えない音と共にソフトボールはあっというまにグラウンドの外に消えた。 太郎には打球すら見えなかった。 「ふぁ〜る!」 審判兼キャッチャーのナオミが軽く言う。 どうやら優美が思いきりひっぱたいた打球はライト線の右、遥か場外に飛んだようだ。 「ちょっとタイミング早いね。もうちょっと遅めで」 ナオミのアドバイスにうんうんとうなずく優美の姿を眺めていた太郎には嫌な予感がしていた。 …ピッチャー返しされたらどうしよう… 「さー次はちゃんと打つぞ〜♪」 「ワンストライクね〜」 太郎の心配を他所に優美とナオミは楽しそうに準備を整えた。 こっちに飛んでこないように祈りつつ太郎は2球目を投げた。 前にも増して力のこもったスイングがボールを的確に捕えた。 バギンッッ!!どがっっ!! 鈍い衝撃音が連続した。そして太郎の目の前を1塁側から3塁側にボールがゆっくりふわりと横切った。 太郎は3塁側のファールグラウンドをてんてんと転がるボールを呆然と見送る。 また何が起きたかわからなかった。 1塁線に低いライナーで飛んだ打球は1塁ベースの角に直撃して跳ね返ったのだ。ベースは底に短い棒があり地面にさしこまれ固定されているのだが、あまりの衝撃で金属の棒が折れ曲がり抜けてしまっている。 打球は1塁ベースを無理矢理引っこ抜いてなお、太郎の目の前を横切って飛ぶだけのエネルギーが残っていたのだ。 「ああ〜フェアだけどボールも割れちゃったね〜」 ナオミが転がるボールを取りに行き、拾うとそれは確かに大きな裂け目ができていた。 太郎は全身に鳥肌が立った。あんな打球が自分に向かって飛んできたら… 「もうちょっと軽く打とうか優美ちゃん…って太郎君?」 マウンドを見たナオミの視界にもう太郎の姿はなかった。 とても3球目を投げる勇気は出なかったのでした。 |
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